「自分で生きていくための武器を身に着けると、人生は楽しくなる」学生ライター・松田氏が考える『生き方を考えるプログラム』とは?
「大学1年が終わるくらいまで、ぼくは死ぬことばかり考えてたんです。でも、自分がどう生きたいかを考えて、ライターという道を見つけて歩いてきたら、生きるのが楽しくなった。」
わたしの目をまっすぐに見つめながら、少し笑みを浮かべてそう言うのは、ライターとして仕事をしながら大学に通う、松田和幸さん。
生まれは山口県で、姉をもつ双子の弟として誕生。
そして高校を卒業するまでを山口県で過ごし、大学進学を機に沖縄へ移住した。
「山口は良いところでしたよ。平和だし、仕事はあるし、温泉街もあるし。生きていくのには困らない場所です。でも、自由がありませんでした。自分で生き方を選べる、という自由が。」
高校時代に、身の回りの環境に猛烈な窮屈さを覚えて、大学は県外に行くことに決めていたという。
そこで、自分で行き先を選べるようになったからこそ、小さい頃から憧れていた沖縄に移住することにしたそうだ。
「沖縄に来たら、大学に入れば、自分が変われる気がしてました。でも、ぼくは変わらなかった。山口にいた頃と同じ窮屈さを、ずっと感じていたんです。ぼくを変えてくれたのは、バイト先のオーナーにもらった『自分がどう生きたいかを、自分の頭で考えろ』という言葉と、自分の努力でした」
松田和幸という一人の男性から伝わってきたのは、自分らしく生きようという強い意志だった。
今までは、環境に生き方を制限されてきた
ぼくの親は、とても心配症で過保護な人です。
ぼくが小さいころから、ぼくの身の回りの世話をすべてしてくれていた記憶があります。
でも、ぼくが何かをやらかして怒らせてしまうと、「すべてのことを自分でやれ。もうお前のことは知らん」と言って、しつけをする人でした。
そのたびにぼくは「あぁ、自分の命はこの人たちに握られているんだな」と思ったのを覚えています。
ぼくが山口で見た大人は、親と学校の先生と塾の先生だけでした。
そしてぼくが生きられる世界は、親が作ったものでした。
親がぼくの人生を支配していたからこそ、親はぼくに言うことを聞かせようとしていました。
「私たちの言うとおりにしてれば幸せに生きていけるんだ」といつも言っていました。
でも、ぼくの両親は毎晩ケンカをしてたんです。
父親は仕事から帰ってくるなり酒を飲んでは暴れ、母親は知らん顔をして逃げる。
そんな家だったから、家族で話すことが、ほぼなくなりました。
父親とは、年に一回会話するかしないかのレベルです。
そんな2人を見てると、「この人たちの言うことを聞いてたら、こんなに不幸になるんだ」という危機感をもったんです。
ぼくは、絶対に両親のような人間になりたくないし、彼らの作ったような家庭を作りたくない。
こうなるくらいなら死んでやる、と決めました。
でもぼくは彼らの生き方しか知らなかったので、『結婚することは不幸』だと思ってましたし、『生きてても楽しいことなんてないんだ』と思い込むようになりました。
そう思い込むと生きようが死のうがどうでもよくなり、両親に反発するようになりました。
「殺したいなら殺せ」「俺はお前らの奴隷じゃない」「お前らの望むとおりにさせようとするなら、目の前で自殺してやる」と言い続けてきました。
彼らはいつも「お金がない」と言っていたので、自分がいなくなればいいんだという思考になったのもあって、そう言い続けてました。
そんなぼくをちゃんと生かしてくれたので、良い両親なんですけどね(笑)
とはいえ、地元にいたときのぼくは、自分で生き方を選べるという事実を知らなかったんです。
沖縄にきて、自分がどう生きたいかを考えはじめた
沖縄には、山口にはほとんどいないタイプの人たちがたくさんいました。
自分で事業をやっている人とか、自分のなかにある想いに突き動かされている人とか、答えはないけどとりあえずやってみるとか、そんな人たち。
山口にも数人いたんですけど、あの頃のぼくはそのすごさを理解してなかったから、今思えばもっと話しておけばよかったなと思います。
琉球大学に入ったぼくは、『とりあえず何かしなくちゃ』という危機感に追われて、いろんなところに顔を出したりインターンをしたりしてました。
でも、それらは自分がやりたいからやってるんじゃなく、やらなきゃいけないと思ってたからやってたんですね。
その結果、背負ってる責任がしんどくなって、そのほとんどをやめてしまいました。
あのとき関わっていただいてた方々には、本当に申し訳なく思っています。
結局、当時のぼくは、何も自分で選んではいなかったんですね。
自分がやりたくてやってるわけじゃなく、やらなきゃいけないような気がするからやってる、というような感じ。
だから責任を持とうとしなかったし、続けようとしなかった。
そんな自分だったから、常に自分を責めていたし、ナイフを自分に突き立てるイメージばかりしてました。
死んでくれという言葉を投げ続けていました。
当時、ぼくはバイトしてたんですけど、そんなぼくだったから全然役に立たなかったんですよ。
出勤してても上の空なこともありましたし、自分から動けないし、みたいな。
でも、そんなぼくに「それでもお前を信頼してるぞ」という言葉を、バイト先のオーナーが言ってくれたんです。
それが大学1年が終わるころですね。
12月にバイトとして入社して、仕事もちゃんとせず、逃げるように休学を決めたぼくに、オーナーはそう言ってくれました。
それが嬉しくて、「この人のために命をかけて頑張ろう」と思ったんです。
そして、常々言われていた「自分がどう生きたいかを自分の頭で考えろ」という言葉を胸に、休学中に考え続け、ライターという道を見つけました。
同時に、日本おもしろ記事大賞というコンテストで賞をもらうという実績をもって帰りました。
ちなみに、そのときの作品がこれです。
そんなこんながありまして、ライターとしてやっていく中で『ライティング』という武器を身に着けたんですよ。
すると、不思議なことに生きるのが楽しくなったんです。
今までは自分が嫌いだったし、死ぬことしか考えてなかったんですけど、それってたぶん、自分が何の役にも立たない人間だと思い込んでたからなんですよね。
それが今、誰かの役に立てるようになって、仕事をするなかで自分を表現できるようになったからこそ、生きるのが楽しくなったんだと思います。
誰かの役に立つというのは、誰かのために生きることではありません。
自分の価値を発揮して、他人に認めてもらう行為です。
誰かの役に立つからこそ、自分が生きててよかったと思える瞬間があることを、ライターになってから学びました。
努力すれば、生き方を選べる。だから、努力できる環境と仲間を作りたい
ぼく、2か月前に、靴磨きをするサービスを始めたんですよ。
もともと自分の靴を磨くのが好きでやってたんですけど、だんだんと『汚れてる靴をすべて磨きたい』と思うようになったんですね。
まぁいろんな壁があるし、試行錯誤してるなかでしんどいことがいっぱいあるんですけど、やっぱり楽しいんですよ。
最近は実力もついてきたし、収入もアップしてきたのもあるし、なにより自分が好きなことなので。
自分が好きなことで人の役に立って、なおかつお金がもらえるってすごく幸せだなぁと思うんです。
そして、できればみんなにもやってみてほしいと思っています。
生きてて楽しくなさそうにしてる人には、とくに。
でも、自分が好きなことなんてそう簡単には見つからないし、続けていくのも難しいとは思います。
だからこそ、ぼくは作りたいものがあります。
それが『生き方を考えるプログラム』です。
ざっくり言うと、ぼくが今靴磨きをやってるように、それぞれが好きなことで価値を提供してお金を稼いで、月に1回くらいの頻度で報告会をするというものです。
このコミュニティー内では、たとえば「靴磨きを3回するから、車を見てほしい」というように、自分のもってるスキルのやりとりができます。
好きなことをやるというのは、ほんとに何でもいいんです。
ぼくはライティングと靴ですが、ネイルが好きならネイル、散髪が好きなら散髪、アクセサリー作りが好きならアクセサリーを作って売って、車が好きなら整備をしてみる。
ダンスが好き、楽器ができるなら余興で稼いでみるとか、そんな感じ。
とにかく自分が好きなことで誰かに価値を提供して、それに見合った対価をもらうというのが、このプログラムの趣旨です。
好きなことが見つからなければ、とりあえず自分が好きそうなことをやってみて、2週間くらい続けてみて、好きなら続ければいいし、違うと思ったらやめればいい。
そうやって、自分の武器を見つけて磨いていくのが、このプログラムです。
一人でやるとハードルが高いものも、同じようなことをやってる仲間がいるからやりやすいはず。
仲間同士でコラボして、新しいことが生まれてもおもしろいなと思っています。
今働いているバイト先が「人・モノ・情報が集まることで、学生が自分の生き方を考えていく場所」なので、そこの卒業制作にできればと思っています。
この話はまだしてないので、できるかはわかりませんが。
本来、そんなのは必要ないんですけど、最後の恩返しとして何かを残していきたいので、そう思っています。
とりあえずは自分が自分の好きなことで収益を得て、そのノウハウが確立してからだなと思ってるので、まだ何も動いてはいません。
ですが、やりたいなと思ってくれた方がもしいらっしゃれば、一緒にやりませんか?
取材の最後に、彼はこう言っていた。
「あくまでぼくは、経験上、この方がいいのではないかと思っているだけです。
本来なら考えなくてもいいことかもしれないし、余計なことに時間を使っているのかもしれない。
時間を無駄にしているのかもしれない。
どう考えて、何を選択するかは、自分で決めることであり、人の勝手です。
その自由を尊重したうえで、ぼくは言います。
自分で選択した自分の人生を生きるのは、楽しいですよ。」
(取材・文・写真・編集/松田和幸)