物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

ライオンと剣の国の冒険①『取り戻す旅』

それは、自分を取り戻す旅だったように思う。

日常のなかですっかり習慣になってしまった、自己嫌悪と自己否定によって失われた、自分を。

 

 

西都を経由してニゴンボに降りたぼくたちは、右も左もわからないまま、タクシーに乗り込んだ。

時刻は22時。

夜が早いスリランカの街は、すでに眠っていた。

 

突然だが、空港で拾うタクシーの運転手には、ぼったくられることが多い。

きゃぴきゃぴの観光客に見られてぼったくられるのが大嫌いなぼくは、代金を慎重に交渉した。

3000ルピーで手を打ったものの、後からゴネられる可能性を危惧したまま、スリランカの街を滑っていく。

 

初めて見るスリランカの街は、意外と都会だった。

高速道路がドンとあり、ドミノピザやケンタッキーなどのチェーン店も多くある。

日本の車会社もところどころに進出しており、知らない土地で多少の安心を感じられた。

 

そうして街を眺めて40分ほどすると、ホテルに着いた。

先の危惧は杞憂で、タクシーの運転手は言った値段を受け取った。

インドに近い国のタクシーだったため、その素直さは意外だった。

この国の人は優しいのだと、その時思えたほどだ。

 

ホテルに入ると、小太りのシンハラ人とサリーを巻いたおじいさんが迎えてくれた。

「遅くなってごめんよ」と言いながら、チェックインを済ませる。

ネットで調べた限り、安いことしか取り柄のなさそうなホテルだったが、部屋に案内されると、なかなか良いホテルを選んだなと安心した。

 

部屋に入ると、シングルベッドが2つ並び、セイロンティーのティーパックと湯沸かし器が置いてある。

風呂場は大理石でできているようで綺麗だし、お湯も出る。

そして何より、ベランダが良い。

住宅街のなかにあり、スリランカの人々の生活を眺められるようなベランダだった。

このホテルはまさに、スリランカ旅を始めるのにぴったりだった。

 

ここから、ぼくたちの旅が始まるのだ。

ぼくらはタバコを吸いながら、これから出会う景色に胸を膨らませ、笑い合った。

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