物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

理解

 「理解とは、あなたにとって何ですか?」と聞くと、「感覚である」と、彼は言った。漢字を見ると『理を解くこと』であるが、それは物事に対してのみであると。人を理解する場合においては、それは感覚と呼ぶに等しいものだと。

 彼は、紛争解決を仕事とする人だった。パレスチナ南アフリカにて、人々の憎しみや殺し合いを、対話で治めてきた人である。対立する組織のリーダーたちを招き、その国を担う重要人物を招き、自身が殺されるリスクを背負いながらも、全員でその国の未来について話し合う場づくりをしているのが彼だった。

 私にとって、理解とは杖だ。これを失えば生きるのが困難になる、重要なものだ。彼に質問をした当時もそう思っていた。ただ、理解とは何かと聞かれると「人を知ることではないか」と私は返していた。だから、彼の返事を聞いた私は、なんて浅はかな言葉として使っていたのかと思った。理解とは、他人になることだったのだ。「彼・彼女なら今、どうするだろう」と考えた時、寸分違わず彼らと同じ言動を取れる。それこそが理解だったのだ。

 他人の気持ちを知ることなどできない。ましてや他人と同じ思考をもつことなどできない。理解とは、そんな理を解った先にあり、それでもなお、その人になろうとすることが理解なのだ。彼が力をくれたこの杖は、自分を生きること、人と生きることを教えてくれた。自分や他人を理解し続けることで、私は生きている。

 

 

 

テーマは「理解」、600字以内で書いた。

締めの文章がありきたりで気に入らないが、他の言葉が思いつかないので今回はこれで。