物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

風景

眠っている間に見た風景の中に、唯一はっきりと覚えているものがある。あの夢を最初に見たのは、幼稚園生のときだった。

 その夢のなかでぼくは、幼稚園のバスに乗り、ほかのみんなと遠足に向かう途中だった。その夢は、上から俯瞰する視点で投影されていた。ちょっとした森を抜けたバスは、突然停まった。ぼくがバスを降りると、そこには腕の折れた女性がいた。ただ折れていたわけではなく、肘から先が、肘から少し離れたところに浮いていた。そして全体的に青白いその女性は、静かに呻いていた。ぼくは躊躇なく話しかけた。「大丈夫ですか?」女性は、視線だけこちらに向けた。ぼくはさらに話しかけた。「腕、ちょっと戻してみましょうか?」女性は何も言わなかった。そのときぼくは、その女性を助けなければならないという気持ちだったのを覚えている。だがその後は何もなく目が覚めた。

 それから1年ほど経って、また同じ夢を見た。夢に出てきた女性が、ぼくを呼んだのだと直感的に理解した。1年前と同じ場所、同じ姿で女性はそこにいた。向き合っているぼくに、女性は口だけ動かして何かを伝えようとした。声はなかった。結局、彼女が何を伝えたいのかわからないまま、ぼくはまた目を覚ました。あの夢だけ今も覚えているのはなぜなのか。一つだけ確かなのは、その女性の姿が、当時やり込んでいた『ヴァンパイア城』というカプコンのゲームの雑魚キャラによく似ていたということだ。