物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

親切

 ぼくが5歳の頃、母親の買い物についてスーパーを歩いていたときのことだ。母親が買い物を終えてレジを待っていたとき、ぼくは一人で外に出たことがあった。そして自動販売機の前に立ち、並んでいるジュースを見上げていた。当時は自動販売機という名前を知らずどうやって商品を買うのかもあまり理解していなかったが、そこからジュースが出てくることは知っていた。私はジュースを飲みたそうにしていたのだと思う。しばらくすると、知らないおばあちゃんがやってきてジュースを買ってくれた。あばあちゃんは見ず知らずの子供に、自分の利益にならない施しをしてくれた。あれは親切だった。

 ひねくれた見方をするならば、それは彼女が自分を善人であるとを思うための施しだったのかもしれない。ぼくは、人間の行為はすべて自分のためにするものだと思っている。世のため人のための行為も、つまるところ自分の居心地のいい環境を作るための行為だと思っている。だが彼女にはそのまま通り過ぎる選択肢もあったのに、それを選択しなかったのはなぜだろうか。それは、あのおばあちゃんが自身の延長としてぼくを見てくれたからではないかと思う。ぼくが自販機の前で考えていただろうことを自分ごとのようにとらえてくれたのだと。

 親切とは、相手の気持ちを察して同じ立場に立った自分が望む施しをすることだと思った。同時に、親切は余計なお世話と紙一重だとも思った。