又吉直樹著『第2図書係補佐』を読んで22
みなさんは古典の教科書で、「李徴という詩人が苦悩の末に虎になった」という話を読んだことはないだろうか?
ぼくは当時、授業でその話を聞いたときに『人間が虎になる』という場面を生々しく想像してしまったので印象に残っていた。
山月記は李徴が友人に、虎になった経緯を説明しながら話が広がっていくというあらすじで、又吉さんも彼と同じく自尊心の高さゆえに虎になりかけたことがあるというのが今回の内容だ。
サッカーの名門高校に上がり、なんとも苦しい練習をしていくなかで怖いほど順調にレギュラーへと駆け上がった又吉さんは、当時日本最強だった高校との試合に後半から出場した。
それは監督やチームメイトから期待されていたための采配だった。
だが結果はボロ負け。
自分が出れば必ず勝てないはずがないと自負していた彼は、帰りの電車でつり革が掴めないことに気づいた。
驚いて手を見ると鋭い爪が伸び、金色と黒の毛が生えていたのだった。
この話を読み、自身が感じた悔しさを表現する手段として虎になったというのは効果的な比喩だなと思った。
そして続きもまた面白い。
すぐさまカバンで手を隠したが、周りの乗客が口を開け僕を凝視している。
そこは大阪だったため、地の利をいかし六甲おろしを口ずさんでその場をやり過ごした。
家に帰ると冷水で揉み湿布を貼って寝ると朝には人間の手に戻っていた。
これは、試合で負けたことへのショックと怒りが表情や態度に現れていて周りに見られていたのだろう。
そして家に帰り、彼の場合はノートに負の感情を書き殴って一晩寝たらすっきりした、という話の比喩なのだろうと思う。
後日談もセットで虎になる比喩に含めるのは面白いなと感じた。
「冷水で揉み湿布を貼って寝た」という対処法も面白かった。