物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

戻らないもの

 大学3年に進学した山田は、ゲームに明け暮れる日々を過ごしている。毎日やっているのは、世界中のプレイヤーとつながり、話をしながらプレイできるオンラインゲームだ。面白くない授業に出て、楽しくないアルバイトに時間を費やすような、ただ時間を溶かすだけの感覚だった彼にとって、そのゲームは久々に胸を躍らせてくれるものだった。

 彼には双子の兄がいた。中学までは同じ学校に行き同じ部活に入っていて話をすることも多かったが、高校から学校が別になり、同じ家にいても話をすることがなくなってしまった。兄は繊細な人間だった。そのため、自分を責めたりバカにしたりする人間が苦手だった。そんな人間を避けているうちに、兄が安心して話ができる人間がほぼいなくなっていた。山田も、兄からすれば安心できない人間と見られていたようだ。弟のくせに背が高く運動で勝っていた山田に、兄は劣等感を抱いていたのだと思う。会話をしなくなって7年が過ぎていた。

 ある日、山田がゲームをしていると、自分と同郷のプレイヤーに会った。彼は過去にやっていた部活、好きだったゲームが自分と同じで、山田は双子の兄を思い出して懐かしくなった。ゲームを終えた後、山田は兄に連絡しようとアプリを開いて、やめた。それは兄だったかもしれないし、別人だったかもしれない。山田にとっては、どちらでもよかった。幼い頃、兄と一緒にゲームをしていた楽しい気持ちになれたから。