物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

悲観性の男

 ある町に、願えば何でも叶ってしまうほどの強運な男がいた。だが彼は、物心ついた頃からずっと悲観性だった。両親にも同級生にも道端の犬にさえも、嫌われ続けてきたから。嫌われる理由がわからなかった。ただ辛かった。もう終わりにしようと決意した男は、自分だけが惨めに死んでいくことに怒りを感じ「地球ごと滅んでくれ」と願った。

 その日、NASAが地球のすぐそばまで迫った隕石を確認し、このままでは地球が滅ぶと発表した。そのニュースは世界中に即座に広まり大パニックが起こった。そんなパニックの中、一人で下を向いて、男は歩いていた。あちこちから聞こえる声に耳をすますと、どうやら地球が滅ぶらしい。たしかに空が焼けたように赤い。だが地球が滅ぶわけあるかと男は思った。そのとき、民家の庭でバットを振る青年を見つけた。

 周囲が大騒ぎしている中でも黙々とバットを振り続ける青年を見て、男はバカにした口ぶりで聞いた。「君は逃げないのかい?」青年は答えた。「自分は、最後まで野球していたいですから」

 男は、周りに振り回されることなく自分の意思を貫くその姿勢がかっこいいと思った。そして悲観性の自分を恥じた。生きづらさを何かのせいにする前に、生きたくなる人生を自分で作るべきだったと。できることから始めよう。男はバットを借りて構えた。バットを大きく振り、空高く舞う白球をイメージしながら上を見上げると、真っ青な空が広がっていた。