物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

『青春の門』

 「青春の門を叩く」という経験は、大学生になると多くの人が経験すると思う。今まで関わったことない人たちと関わり、保護から外れて新しい世界に飛び込み、自分の意思で過去に思いつきもしなかったようなことをやってみる。子供という枠が外れて自力で人生を生き始める大学生には「青春の門を叩く」という表現がとても似合うと思うのだ。ぼくも叩いた経験がある。

 大学に入学した当時、寮の部屋を整理していると同じ階の先輩が手伝いに来てくれた。そっと部屋に立ち「何か手伝おうか?」と声をかけてくれ、少しずつ仲良くなった。授業が始まって数日経った夜、先輩が所属するサークルに誘ってくれた。そこは社会の在り方や自分の生き方について真剣に考える人たちがいた。今まで見たことがないような人たちだった。その人たちとも仲良くなって、新しい場所に連れて行ってもらったり、新しい人を紹介してもらったりした。ファシリテーションという技術を習ったし、フリーペーパーの制作にも関わった。教会の人に聖書について教えてもらいながら教会の活動に参加して一緒に賛美歌を歌ったこともある。そこで出会った人と沖縄観光をもした。今思えば周りの方々は迷惑していたかもしれないが、ぼくは新鮮な体験を存分に堪能した。そして自分でも会社に行って話を聞いてそれを記事にするようなことを始めてみたり、就活イベントやセミナーなどに積極的に参加するようにもなった。障害者の就労者施設の商品を売るインターンシップもやってみた。大学1年のときには、本当にたくさんの新しいものに触れたなと思う。

 『青春の門』には、田舎から東京に出てきた青年の大学生活の始まりと経過が描かれている。大学の門前で靴を磨き日銭を稼ぐ先輩と出会った主人公は、誘われるまま先輩についていく。新しい経験をする彼の初々しい心情と、若さゆえのプライド、そして交錯する恋の描写が、大学に入学したての日々を思い出させてくれる。主人公の気持ちが分かりすぎてしまうために読んでいるとつい本を閉じてしまう、そんな瞬間が多くある青春を越えた人のための本だった。