物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

納豆

 ぼくは普段イオンで買い物をする。その日もいつも通りに味噌汁を作るための食材を買いながら、大豆食品コーナーに差し掛かると信じられない光景を目にした。納豆が買い占められていたのだ。とうとうバレたかと思った。

 納豆は一見目立たない食品だが、一度冷蔵庫に置くとその有能さが窺える。一人暮らしをしていると、お腹をすかせて帰ってきても自分でご飯を作らなくてはならない場面がある。米を炊いて野菜を切って・・・お腹が空いているとそんなことが苦痛でたまらない。そんなとき、さっと食べる用意ができ、小腹を満たしてくれながら純度100%の栄養価を体に与えてくれる食べ物が納豆だ。しかも単価25円ほど。準備段階で梅干しを入れると泡立ちが良い上においしくなり、素晴らしい疲労回復効果を与えてくれる食品の高みへと昇華する。その後の料理では焼いても良いし混ぜても良い、調味料を変えれば違う食べ物としても楽しめる。空の納豆売り場を見た時、この有能さがとうとう世間にバレてしまったとぼくは戦慄した。

 一つ疑問なのは、前日までは納豆がたくさん置かれていたのに一夜にしてなくなってしまったことだ。その日は台風が直前に迫っていた。「緊急事態には納豆に頼る」これは誰に言われなくても人間、とくに日本人のDNAに刻まれた危機回避行動なのかもしれない。ぼくはその日、納豆を買えなかった。ぶっちゃけ他の店舗に行ってまで買うほどではない。