物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

観察

 中学生の頃、恩師に教わったことがある。それは今もぼくの中に教訓として生きている。彼は塾の先生で、よく生徒のことを把握している人で、生徒や子供に人気のある塾講師だった。塾での授業が終わったある日、先生がなぜそんなにも人のことを知っているのか気になって、聞いてみた。そのとき彼はこういった。

 

「僕は人の持ち物をよく観てるのよ。例えばピンクで水玉のカバンをもってる中学生の子だったらちょっと幼いのかなっていう風に、相手を理解する材料をその子のいろんなところから集めて、予想しながら接してるんよ」

 その先生には後に剣道を教わることになり、そこでも観ることの重要性を教わった。剣道の稽古の基本は”観て真似る”こと。師匠の動きを観て、真似て、自分のものにしていく。そうすることで、自分の技術になっていくのだ。

 

 もともと人の顔色を伺って生きてきたせいか、このやり方はコミュニケーションを取る上で非常に役に立っている。取材に行った時は相手の顔や反応、仕草や持ち物を観て話し方とスピードを変える。自分と合わない人も瞬時にわかるようになった。文章を書くときにも、文体を真似て書くというのが自然にできるようになってきた。ぼくは初対面の人と会うと「刺されるかもしれない」と思いながら接するので、観るという行為は油断を防いでくれる。気を許すと、相手への理解の役に立ってくれる。髪や爪の変化にも容易く気づけるので便利だ。