物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

大人

 正直、婚約という行為を若干なめていた。初めて婚約を考えた時『せっかく彼女の誕生日にディズニーに行くし、そろそろ良い頃合いだし、タイミング的に最高なのでは?』という気持ちだった。

 実際にやってみた今、その重さを実感している。今までは自分だけの人生を生きてきて極端に言えばいつ死んでもいいと思ってきた。放り出してきた責任もたくさんある。生きている理由を考えても見つからなかったし、社会の慣習より自分のやりたいようにするんだという気持ちを優先してきた。それはそれで良かった。今の自分を作ることができたのは、そうした選択をしてきたおかげだ。けれど婚約をして、初めて実感したことがある。

 自分だけのものだと思っていた人生が、人にどれだけ深く関わっているか。放り出してきた責任の重さ、そしてそれを拾い集めなければならないということ。社会というものの偉大さと受けた恩恵、それを感じた上で自分を貫く選択肢を取っていかなければならないということ。それらの重圧を受けて、自分がしたことの重さを思い知った。

 けれども後悔はない。これから来る未来を、むしろ楽しみにしている。一人の人生だと思っていた時にはなかった感情だ。もう逃げることはできないのだと確信しているが、喜んでその状況を受け入れられる。

 婚約する前日、親友にそのことを話した。「大人になっていくんだな」と彼は言った。大人になっていくんだなと、実感している。