物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

背水

 追い込めば、勝手に動くものだと思っていた。高校・大学受験のときはそうだった。「大学に受からなければ自殺」と言い聞かせると、毎日勉強を頑張れた。でもそれは、勉強をすると大好きな先生たちに褒められたからだ。大学に入り「大学をやめればライターに専念できる。お金稼ぎに全力で向き合える」と言い聞かせたけれど、そんなことはなかった。長期休暇中にできないことはいつになってもできないのだ。だから自分を動かすのに必要なのは、自分の要望を聞くことだと思う。

 したくないことを強制されて能動的に動くことは人はいない。対価がない場合は特に。突然だが、ぼくは内側に他人を宿している。辛い時にいつもぼくを助けてくれた、騎士のような、ガードマンのような、別人格に近いものがいる。今までの行動は、基本的にその人格が行っていた。攻撃的な態度や行動は、弱い主人格を守るためのその人格の特性なのだ。

 今や行動の舵取りの裁量はその人格にある。彼がしたいことは、警備や人に尽くすことだ。いかに彼を追い込んだところで、その前提を理解してあげなければ言うことを聞いてくれない。主人格であるぼくの役割は、彼をどう活かして生きていくかだ。それは彼の意思を組みながら、外界にあるやるべきことにどう結びつけるかということ。彼の特性を殺してしまうことではない。自分は他人だということを常に忘れてはならない。ぼくはいつだって彼に助けられてきたのだから。