大学受験会場に向かうタクシーの中にいる気分
あのときのぼくは、何もしなくてよかった。
試験会場に向かうタクシーの中で過ごしたのは、何もしなくていい時間だった。
勉強は昨日までで完璧にしたから、これ以上勉強する必要はない。
横には母親がいるからお金の心配もしなくていい。
ただただ、ほぼ初めてみる沖縄の風景を眺めていればよかった。
あのときのぼくは、守られていたのだ。
何も知らない子供だった。
世界一裕福な時間だった。
ぼくはあの時間が好きだった。
でも、移動時間は短い。
もうお別れを告げなきゃいけない。
これから自分の能力を遺憾なく発揮して、これからのために生きていかなきゃならないのだ。
不安。不安。不安でしかない。
でも巨大に思える不安と引き換えに、ぼくは自由を得る。
ぼくを導くのは苦痛じゃなくて、楽しさだ。
楽しいと思えることの先に、自分が生きられる道があると信じている。
ぼくの人生が、日本を良くするものになると信じている。
始めよう。