物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

快楽

 ぼくが快楽に浸った時、常に人が離れていった。たぶんそれは、最高に自分本位な時間だったのだろう。バドミントンをしていたときも、友達とゲームで遊んでいた時も、快楽に浸っているときはいつも、自分の勝利や楽しいという感情を守りたい時間だった。その時だけは、自分が世界の王様だった。一緒にいた人たちは、ただのエキストラでしかなかった。彼らは、ぼくが勝利の余韻を味わうために存在し、ぼくが優越感を得るために遊んでくれる存在だと感じてしまっていた。だから負けると本気で悔しかった。

 彼らがぼくのもとから、順に去っていったとき思った。快楽に飲まれてはダメなのだと。人の気持ちを考えるとか、相手がどう感じるかを考えながら、彼らはぼくと遊んでくれていたのだと。彼らはぼくより大人だと感じた瞬間があった。それは一度や二度ではない。その経験を経て、ぼくも大人にならねばと思った。人の気持ちを汲み、一緒に歩く術を身に付けなければと。

 それからの私は、何かにのめり込むことが怖くなった。酒を飲んでもあまり酔うことはなく、一緒にゲームをしてもほどよく遊ぶ人になった。快楽の恐怖を知った代償に、好きなものを失ったのだと思う。そんなぼくは今、酒に酔ってこの文章を書いている。沖縄に来て以来、酒に酔うことがなかったぼくにとって珍しい事態だ。快楽に溺れる恐怖も、人の気持ちを考えることも、どちらも理解できてきたのかと思うと、感慨深い。