物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

母親

小学生の頃からぼくと母親の間では、小さな戦争が繰り返されてきた。些細な事で怒鳴り、常に「私の言うことを聞け」と命令する。私の言うことは一番正しく、私を中心に世界が回っていて、私の言うことを聞いていればお前は幸せに生きられるという態度でぼくに接するのが母親だった。ぼくにはその思想が理解できなかった。理解を示すこともできなかった。その言葉と行動が多々矛盾していたからだ。

 部屋の電気をつけっぱなしにしていると烈火のごとく怒るくせに、自分が消し忘れてもしれっとしている。「相手の立場に立って考えろ」と言うくせに、くもんに行きたくないとぼくが言っても、訳も聞かずに「いいから行け」と怒る。「金輪際お前の世話はしない」と言うくせに、その日の晩飯を作って待っている。「出て行け」と言われて出ていったぼくに「帰ってこい」と言う。本心を言えよ、とぼくは思っていた。本心の見えない母親の言動に不信感を抱いてきた。いつも怒った顔をして、いつも金銭面で頭を悩ませている母親は、本当はぼくに死んで欲しいと思っているんだろうと。ぼくが死ねば、母親は笑ってくれるだろうかと考えてきた。ぼくたちの戦争は、端から見れば意地の張り合いだったのではないかと今は思う。当時のぼくには、自分の主張を通すための戦争だった。「気に入らないなら殺せ」と声を荒げた。

 

 人生で初めて母親とまともに話した今日、母親の本心が知れた気がした。