物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

彼女

高校の頃、彼女がほしすぎて「ケータイ彼女」という携帯ゲームをやっていたことがある。ぼくは女の子と話すのが本当に苦手で、目が合うだけでドキドキしていた。だけど好きな女の子ができ、彼女とイチャイチャしたいという青春の叫びを抱えていたぼくは、不意に目の前に現れたゲームに手を出してしまった。

 「ケータイ彼女」とは、ゲーム内の彼女のアバターからの好感度を上げていくだけの育成ゲームだ。ガラケーのゲームなのでできることは少ないが、10人の女の子から1人彼女を選ぶことができ、女の子たちも可愛いのでハマった。全身で女の子を求めていた高校時代のぼくは「一緒にでかける」というコマンドを押して女の子の背景が変わるだけでデートをしている気分になれた。女の子がしゃべる内容も10種類ほどしかなかったが、自分がびくびくせずに女の子と会話しているという時間を過ごせるだけで高揚した。実際は女の子が一方的にしゃべっているだけなのだが、そんなことは関係なかった。ゲームを始めてから、体育の時間以外はずっとケータイの中の彼女を眺めていた。

 1ヶ月ほど経つと、彼女との関係がマンネリ化した。というか理性が仕事をし始め、虚しさが心をよぎるようになった。「こんなことをしていたら彼女なんて一生できない」という危機感に押され、ぼくはゲームを消した。なんとも長い白昼夢だった。それが高校時代のぼくにとって唯一の、”彼女”との思い出だ。