又吉直樹著『第2図書係補佐』を読んで28
今回は、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の内容について。
この文章は、親友だと思っていた人にお金とバイクを盗まれて、借金をなすりつけられたときの又吉さんの話だった。
突然霧の中に消えたようにいなくなった元親友を、かすかな記憶と異常な空腹感に呼び覚まされた第6感を頼りに追いかける物語。
その最中に、彼は国道沿いのビリヤード屋に立ち寄った。
店員の綺麗なお姉さんが一人で本を読んでいた。
事情を話して元親友の住所を聞き出してもらうために電話をお願いすると、彼女は「東京ガスです。今月の請求書がこちらに戻ってきているのですが・・・」としゃべった。
そうして又吉さんは無事に住所を手に入れお金とバイクを取り戻すことができた。
この話の面白さは3つあった。
一つは、借金を押し付けられて親友に逃げられるという、遭遇することがなかなかない経験であること。
二つ目は『綺麗なお姉さん』という言葉のあとの、事情をすんなり受け入れ、作戦を立てて即座に実行し成功させるお姉さんの描写。
綺麗で聡明でかつ優しいお姉さんという、ここ数行の文章だけでこのお姉さんが好きになったので結婚したい。
三つ目は本の紹介としての文章構成。
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は、そのお姉さんが読んでいた本だった。
紹介する本を、文章の中に登場する綺麗で聡明で優しい笑顔の素敵なお姉さんに読ませることで、読者にも読みたくなる気持ちをもたせてしまう構成のやり方はすごいなと思った。
そのうち試してみたい。