物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

霊感

 ぼくには霊感がない。しかし感受性がゆえなのか、霊感がめちゃくちゃ強い先輩と歩いていた時に、一度だけ幽霊を見たことがある。一緒に歩いていた先輩は20代の前半から霊が見えるようになり、憑かれても家に持ち込まないように家の玄関先に泡盛を置いていたような人だった。そして霊とのつながりを遮断するために、いつも数珠を手首に着けていた。

 そのとき先輩の家で2人で飲んでいて、コンビニに買い出しに行くことになったとき、先輩は数珠を着け忘れて出てしまった。家を出てすぐには気づかなかったのだが、道を歩いていて景色のなかの異変に気づいた。幅2メートルほどの狭い道で、真ん中に茶色っぽいコートを着たサラリーマン風の男の人が立っていた。その人を見た瞬間、互いの足がピタッと止まり、どちらともなく「引き返そう」と言い、次の足を後ろに向けて走り出した。後ろから何かがすごい勢いで迫って来る気配があった。すぐ横の先輩を見ると、目を疑った。先輩の両肩に掴まって、飛ぶように浮かんでいる男の姿があった。着ているコートは少し透明で、全身が軽い布のように浮いていた。その男を見た瞬間、なぜか彼が26歳だということと、悪意のない霊だということがわかった。

 そのまま走ってコンビニに入ると、しばらくは視線を感じていた。視線がなくなるまで待ち、家まで走って帰った。それから姿を見ることはなくなったが、近くを通ると今も視線を感じる。