物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

変人

 ぼくの地元には、変な人が住んでいた。その人はなぜかよく知らないが、ぼくの母校である山口高校をとても憎んでいるようだった。その人の家は、ぼくの家から徒歩3分ほどのところにあり、自転車で通るといつも追いかけられた。というのも、ぼくの高校では「山高」と書かれたステッカーを自転車に貼ることが義務付けられており、それで山口高校の生徒だとバレるのだ。そのステッカーを見て何かに掻き立てられたその人は、「てめぇらなんかただのクズなんだよ!!」「学歴なんて意味ねぇんだよ!!」と叫びながら追いかけてくる。しばらく走るといつの間にかいなくなっている彼は、母校では有名で『山高おじさん』と呼ばれていた。追いつかれると何をされるかわからないので必死に逃げたが、その状況に慣れると山高おじさんをどれだけ長く引きつけておけるかの勝負をして遊ぶようになった。勝負は一人で登下校しているときに遭遇し、どこからどこまで追いかけられたかを次の日に話す、というもの。手軽に武勇伝を作れるその遊びが一時期流行った。

 ある雨の日の夜、塾での勉強を終えて視界の悪い中自転車で帰宅していると、山高おじさんの家の前を通った。そこにはこちらをじっと睨んで何かを叫ぶおばさんがいた。彼女はたぶん奥さんか妹さんだと思った。彼女にも山高おじさんと同じ雰囲気があった。何に怒っているのかはわからなかったが、もうおじさんで遊ぶのはやめようと思った。