ライオンと剣の国の冒険②『綱渡り』
朝、荷物をまとめて出かけたぼくたちは、次の街に移動する手段を探した。
グーグルマップで調べてみても近くの駅からどこに行けるのかがわからないので、ひとまず大きな駅を歩きながら探すことにした。
近くの小さな駅のような場所で話を聞くと、付近の一番大きな駅に行くにはバスに乗るといいと言う。
アドバイスを頼りに大通りのような場所を歩きながら、道ゆく人たちに話しかけながら、ようやく駅の近くにたどり着いた。
バスを降りると、川というか溝というかは定かでない、緑色の水が流れるが雰囲気の良い場所だった。
そばに屋台のようなレストランがあり、その風景に混じって食事ができるという。
ちょうど朝飯を食べていなかったぼくたちは、そこでスリランカに浸ることにした。
インドのそばにあるとはいえ島国だからか、インドでは見かけなかった料理があった。
それはナンを細かく切って甘辛く炒めた、というか少し砂糖が多すぎでは?と思ってしまう料理だった。
飲み物には「アップルウッド」と名乗るジュースを選ぶと、茶色くドロドロした確かにりんごの木を連想させるものが来た。
飲み始めはその先入観からか気持ち悪く感じるが、慣れるとうまい、そんな味だった。
スリランカに来た、という実感を噛みしめるような、とても心地がいい時間だ。
食事を終えてそのまま行こうとすると、なぜか周囲のおばさまたちに見つめられる。
「これが普通じゃないの?」と話しながら皿をそのままに席を立つと、どこからともなく5羽ほどのカラスが一斉にご飯をついばみに来た。
なかなか壮絶な場面だった。急いで席に戻り、カラスを追い払ってテーブルを片付ける。
「おばさんたちはこれを伝えたかったのね」と笑いながら、列車に乗った。
アジアの列車はどこで乗っても人が多いが、スリランカも例外ではない。
いつ出発するかが不明瞭な列車に乗り、これ以上乗ってこないでくれと祈りながら分刻みで増える乗客を眺める。
スリランカの首都に近いためか、欧米系の顔立ちが目立つ。
小田急線の終電のように混雑した列車がようやく動き出し、この状態であと何時間乗るのかと少しため息をついた頃、地元民風の男が話しかけてきた。
色黒でアジア系の顔立ちをしており赤と黒のチェックな服を着ているその男は、首都コロンボを北上して地元に戻る途中だと言う。
だが金がない。だから一緒に行かないかと言った。
ぼくたちは顔を見合わせ、しばし相談した。
着いていくと面白そうだ。旅の物語はこういう風に始まるのではないか、などと言いながら。
しかしぼくたちにはキャンディという次の目的地があり、しかもその男と話していると、旅の道連れにするには怪しすぎるという結論に至った。
また会えたら一緒に行こう、と伝え、しかし身動きが取れないほどに混んでいたのでそれから1時間くらい同じ場所に佇んで気まずい時間を過ごした。
列車が動き出して3時間ほど経った。人は一向に減らない。
押し合いながら立ちっぱなしで電車に乗っているのが辛くなってきたぼくたちは、他の移動手段を探すために知らない土地の駅で電車を降りた。
そんなに小さな駅には見えないのに駅員すらいない寂しい駅だ。
誰かから情報を得ようと歩いていると、地元民のようなおじさんに話しかけられた。
彼はトゥクトゥク(3輪タクシー)の運転手だそうで、キャンディの近くまで乗せて行ってやるよと提案だった。
聞けば、ぼくたちが降りた駅はタクシーが行くのも嫌がるくらい目的地からは遠く、俺は暇だからタクシーで行くよりも安く連れて行ってもいいと言う。
ぼくたちはまたしばし悩んだ。自分の居場所がわからず次の列車がいつ来るかもわからない。目的地までの距離もいつ到着できるかもわからない。
話し合った結果、おじさんの提案に乗ろうと決めた。値段は事前に伝えた。
だが、どこをどう行くのかもわからず彼がどんな人間かもわからない。
もしかしたら詐欺師かもしれない。どこに連れて行かれるかわかったものではない。
わかるのはここがスリランカだということだけだ。
不安は尽きなかった。
それでも、迷うより進もうと決めたぼくたちは、顔を見合わせながらトゥクトゥクに乗り込んだ。