物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

限界

 人生には、限界を突破しなければならない場面がいくつかある。インドからトルコへと移動していた飛行機のなかで、突然その時がやって来た。その飛行機に乗ったのは、午前5時頃。まだ夜が覆うニューデリーの空港から、ドバイで乗り換えをするための飛行機に乗り込んだぼくは、席に着くと吸い込まれるように寝た。目を覚ますと窓の外は明るくなり、目の前には少し豪華な機内食が置かれていた。当時は貧乏旅行の最中だったのだが、インド人のいらない気遣いにより片道10万円の素敵な飛行機に乗っていたのだ。機内は金色を基調とした内装で、5日ほど風呂に入っていないぼくには似つかわしくない場所だった。

 これから所持金2万円でトルコを旅しなくてはならない未来を憂いながら機内食を食べると、しばらくしてまた眠った。寝心地の良い座席だった。再び起きると、そろそろドバイに着きそうな時刻。シートベルト着用サインが点いていた。だがそこで、突如猛烈な尿意と便意が襲った。しかも大は液状。体が凄まじい警鐘を鳴らして排泄を促す。CAを呼ぶボタンを連打しても誰もこない。ぼくは必死に尿の出口を物理的に抑えた。隣の若者が大変そうだなという目でぼくを見た。迫り上がる尿と便。あ、ちょっと出たかもと思いながら、40分ほど耐えた。着陸すると人をかき分けて飛行機を降り、何語かわからない標識を見ながらトイレを探し、ついに安息を得た。自分の限界を超えた瞬間だった。