物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

武装

 昔から、何かを持ち歩くことで自分の精神を守ってきた。小学生の頃はそれがカッターナイフ。大学1年の頃まで持ち歩き、もはや紙を切る道具よりお守りに近いものとして認識している。

 そして、あるときは本。小学校や中学校では、休み時間になるとだいたい図書室にいた。外国人が書いた児童書を読むことが多く、その本たちを読んでいる間だけはいろんなことを忘れて没頭できた。何かしんどいことがあるとすぐ安らぎを得られるように、読みかけの本たちを持ち歩いた。『バーティミアス』などの分厚い本は、逃げ道として助けてくれた。

 中でも象徴的なのは、懐中時計だ。ぼくは、学校で懐中時計を持ち歩いていたことがある。それは少年ガンガンの誌上通販で買った『鋼の錬金術師』に登場する銀時計だ。小学生のぼくには高額だったが、お年玉で躊躇なく支払った。それを持っているだけで自分が好きな世界を生きているような気がした。嫌いな自分じゃない自分で生きられているような気がしたのだ。

 振り返れば、それらがただの現実逃避だったことがわかる。その後遺症は今でも頭の中の若干のお花畑として残っている。あの逃避は必要だったのだろうか。ナイフも本も懐中時計も、持たなくてもよかった。だけど持っていたのは、自分以外の誰かになりたかったからだ。

 少し前に、自分は自分にしかなれないことを理解した。それは人間の通過儀礼だと思うので、あの逃避は必要だったと思う。