物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

標語

 「どうでもいい」という言葉を心に置いてきた。ずっと、ぼくを支えてくれた言葉だった。

 仲の悪い両親のどちらに着いて行くかと父親に質問されたとき、誰かと喧嘩して関係を保つための努力がめんどくさくなったとき、友達に「明日から話しかけるな」と言われたとき、試合で勝てなかったとき、両親にゲームを捨てられそうになったとき、祖母との別れが辛くて泣いたとき、夢をもって努力して時間切れで終わったあと。抱いた感情はその時々で違ったが、どの感情にも、自分が傷つけられているという認識をした。その苦痛から逃れるために、「どうでもいい」という言葉で考えることも感情を受け入れることもやめた。別に自分が何を失おうが何を言われようがどうでもよかった。すべての行為は、自分が傷つかないという目的を成すためだけに帰結した。人の気持ちも自分の言動で相手がどう思うかも関係がなかった。「どうでもいい」という言葉だけが自分を守ってくれたのだ。その言葉が人格になった。

 最近ふと、その言葉を肯定の意味で使っている自分に気づいた。誰がどんな生き方をしていようが、どんな考え方でどんな言動をしていようがどうでもいい。勝手にしてくれ。俺も勝手に生きる。そんなセリフがあとにひっつくようになっていた。おそらく、どこかで自分が外界のすべてに逐一反応するのがめんどくさくなったのだと思う。人格は余計な思考を放棄した。そんな自分だから好きになった。