物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

優慮

 「優しさとは、しないことである」と、何かで読んだ気がする。何かは忘れた。だが、それだと思った。

 ぼくの両親は、とてつもなく過保護な人だった。学校に行く準備も、夏休みの自由研究も、習い事も、子供の着替えも、旅行の準備も、雨に濡れた靴の始末も、朝起こすのも、ぜんぶ自分たちがやってしまう人たちだった。その行為に、子供の人生を自分たちの思い通りにしたいという支配欲のようなものを感じて、過干渉で過保護なやり方が嫌だった。大学に入り、一人でできることの少なさを痛感して、そう育てられたことを憎んだこともある。今となっては、その気遣いを享受しながらできることは全部やろうという気持ちなので何とも思わない。そしてあの過保護は、受けてよかったなと思う。

 両親の何が嫌だったかと言えば、時折「こんなにやってあげてるんだから感謝くらいしなさいよ」という言葉だった。嬉しくないことをされて感謝なんかできるかと心の中で叫んだのを覚えている。その瞬間が、人に何かを施すことは優しさではないという教訓をくれた。本当の優しさとは、その人が苦悩する時間を邪魔しないことだと考える。人は自分の人生しか生きられず、誰もが生きる力を培う必要がある。そしてそれは苦悩の中でしか育たない。結果的に試行錯誤する時間を奪うのは、”相手のため”にはならない。

 「優しさとは、残酷なものである」と、何かで読んだ気がする。それだと思った。