物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

虚言

 虚言という言葉を見ると、小学1年の頃から付き合いのあった同級生を思い出す。名前はくま。久間と書いて”くま”と読み、陰で「ベアー」と呼ばれていた。陰でというのは、彼が誰彼構わず気に入らないやつを殴る乱暴な男だったからである。名前に似合わず細身だったが、彼は「曲がりパンチ」という技を生み出し殴り続けた。気の弱い人間はよく彼の標的にされたものである。ぼくもよく殴られた。曲がりパンチはその後、ぼくらの学年で流行り中学に上がるまでいたるところで使われ続けた。

 また、彼は嘘つきだった。「母親がスクラッチで50万円当てた」とか「自分は政治家の息子」とか、自分を強く見せるための嘘をついた。なんだかんだで気が合い、一緒にいることが多かったぼくは、話を聞かされるたびにいつもの嘘かと流すようになり、高校に上がると付き合うのも馬鹿らしくなり疎遠になった。

 彼は嘘を体現したようなやつだった。生きるために嘘をついているのではないかと思わされるほどに。それほどの切実さが彼にはあった。自分を強く見せ、尊敬の眼差しを集め、自分はやはり正しいのだと答え合わせをすることで、自分を保っていたのだと思う。

 そんな彼は、高校3年のときに突然姿を消した。ヤクザに喧嘩を売ったとか家庭が崩壊したとか、いろいろな憶測が飛び交ったが、真相は誰も知らなかった。たまに地元で彼の目撃情報が挙がったが、どれも確証はなかった。