物書きの物置き

物書きなので、物語を書いて並べます。

下手

 昔から、感情を出すのが下手だ。象徴的な記憶の一番古いのは、小学生の頃。毎週2回、塾に行って課題のプリントを数枚解くというのを繰り返していた。チョロい問題は軽く解いていたのだが、どうしても解けない問題に当たったとき、ぼくはプリントをビリビリに引き裂く人間だった。問題が解けない自分の能力への怒り、理不尽にその環境に押し込める親への怒り、その苦しさをわかってくれない先生たちへの怒り、それらをどう発散すればいいのかわからなくて、怒りの原因を直接的に殺すというやり方を採用していた。

 

 その後も、学校の教科書をぐしゃぐしゃにしたり、ノートに幾千もの「死ね」を書き殴ったり、自分の腕を切ったり、心の中で人を殺したり、ナイフを向けたり、嫌いな人間を近づくなオーラで遠ざけたりと、感情を上手く出せないまま順調に育った。父親に「お前はいつか犯罪者になる」と言われたのもあながち間違っていなかったのかもしれない。しかしながら、いつの間にか前述したどれもしなくなった。

 

 大学に入ってからのぼくは、今までの何倍も言葉を話すようになったからだと思う。多くの言葉を自分の中に入れて、すべての事柄に対して言葉を尽くす習慣ができた今、怒りの感情を露わにして逃げることがほとんどなくなった。怒りの正体を言葉にすれば、すっと出て行く。そんな感覚を得ている。怒りは自己満足でしかないと、痛感したのも大きいかもしれないが。