又吉直樹著『第2図書係補佐』を読んで27
今回は、『アラビアの夜の種族』の内容について。
この本の紹介のテーマは、「スケールの大きなもの」だった。
これは『アラビアの夜の種族』の物語としての壮大さ、「面白過ぎて読むものが破滅する」と言われる設定の『災厄の書』をの中身を書く作家の肝の大きさを、又吉さんは本の特徴として掴んだらしい。
たしかにこういう書き方をされると、それがどんなに面白いものかがものすごく気になる。
そして、ここに書かれた又吉さんの体験談もまた秀逸だった。
それは、もっていた傘に雷が落ちた時、とっさに傘から手を離して一命をとりとめ、生徒から雷神と呼ばれた教師の話。
彼は、又吉さんが通っていた学校の行事「耐寒遠足」の際、寒い中歩いて来て言うことを聞かない生徒たちの前に立ち、着ていたジャージを脱ぎ捨てたそうだ。
それから「俺は寒くないぞ!!!」と絶叫し、無理やり生徒たちに言うことを聞かせると言う、スケールのデカい体の張り方をした男だったという。
その後、雷神の新たな逸話が生徒たちの間で囁かれたそうな。
これは、そもそもが体験としてめちゃくちゃ面白い。
最近思うのだが、こういった経験はやはり又吉さんが特別だから遭遇したものなのだろうか?
それとも自分が、面白い出来事に出会ってきたにも関わらずそれを忘れてしまっているだけなのだろうか。
又吉さんは文末を「スケールの大きな男になりたいが、今日も僕は独りでししゃもを温めている」と締めた。
雷神や災厄の書の対比にししゃもをもってくるセンスはさすがだと思った。
原稿を書いているとき、本当にししゃもを温めていたのだろうと思わされるリアルさが面白さを際立たせている。
ぼくもししゃもを温めていれば、いつか芥川賞に輝くことができるだろうか。